美食学研究報告

日本料理の次世代への継承と、更なる発展。日本料理を未来に繋ぐ。

【献立について考える】「焼物」

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「焼物」について考える

「焼く」ということについては、以前に【調理の技法】シリーズで書かせていただきました。
今回は献立の流れの中における「焼物」はどういうものなのか考察していきたいと思います。
「一汁三菜」という言葉を聞いたことがある人は多いと思います。「焼物」はそのうちの「一菜」に相当します。
日本料理において、「焼物」は非常に重要な位置を占めてきました。

メインディッシュとしての可能性

西洋料理において、焼物というのは魚のグリルであったり、牛肉のステーキであったり、メインディッシュに相当します。

日本料理のメインディッシュというか、盛り上がりの一つは「椀刺し(わんさし)」と呼ばれる、お椀と造りです。お造りを「切る」技術と、美味しい「出汁」を引く技術が最大限に表現される部分です。ただ、このような"技術の実力を見せる料理"が"お客様が満足する料理"とイコールで結ばれるかどうかは別の問題です
むしろ、西洋料理に慣れている現代の感覚でいえば「焼物」のほうがメインディッシュ感を表現しやすいかもしれません。大き目の魚の切り身や、牛や鶏といったアミノ酸的な旨味を表現出来る料理だからです。

牛肉のステーキのようなものも今では普通に日本料理のコースにも取り入れられてますし、夏場は旬の鮎の塩焼き、鰻の蒲焼などは、まさに"ご馳走"と言えるでしょう。もちろん、季節によっては魚や肉類を使わず、筍や松茸なんかを焼いてたっぷりと盛り込めば、それもメインディッシュのようにすることが出来ます。
「椀刺し(わんさし)」とは違った視点で「焼物」にもメインディッシュとしての可能性を追っていきたいところです。

また、焼物でなく献立の他の部分をメインにしようと思えば茄子田楽のような、アミノ酸的な旨味の少ない料理にしたりと、自由自在に調整することが出来るでしょう。

季節によって変化をつける

焼物の調理は【調理の技法】の記事でも書いたのですが、調理の中でも最も原始的な「材料を直火で焼く」という方法が使われます。焼くことによって生まれる香ばしい風味や、パリッとした食感、絶妙な加減の焦げ目の美味しさは、お造りやお椀には無い魅力があります。
季節によって、喜ばれる焼物も変わってきます。夏場の暑い季節にはサッパリとした塩焼き、寒い季節にはタレをかけた照り焼きつけ焼き、素材を味噌漬けにして焼く西京焼きなどのような温かみのあるものと使い分けが出来るようになるといいですね。

付け合わせと盛り付けについて

焼き上がりの焼物は、前盛りとして別の一品を添えることが多いです。代表例が"はじかみ"や"酢蓮根"、"菊蕪(きくかぶら)"のような酢漬けにした野菜です。酢の物は口直しにも最適で、照り焼きや西京焼きのような味の濃い目の焼物にはとても合います。
栗の甘露煮のような甘い物が使われることもありますし、シンプルに焼き野菜なども使われます。

器は平らなものを使うことが多く、盛り付けが単調になりやすいです。そのため、季節の葉っぱを飾りに添える工夫をすることが多いです。(料理の盛り付けに使う葉っぱを掻敷(かいしき)と呼ばれます。)笹や紅葉、柿の葉、ゆずり葉、松葉など、色々なものがあります。あまり多く使いすぎると、食べにくくなったり、肝心のメインの焼物が目立たなくなったり、嫌味な感じになります。料理との兼ね合いを考えて、上手く活用出来るようにしたいものです。


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焼く: 日本料理 素材別炭火焼きの技法

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