美食学研究報告

日本料理の次世代への継承と、更なる発展。日本料理を未来に繋ぐ。

「お造り」について考える その2【あしらい篇(「けん」と「つま」の違いなど)】

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前回の記事ではお造りの、主に魚の扱い方について書きました。
今回は「あしらい」について書いていきたいと思います。
前回の記事をご覧になってない方は、そちらも合わせてご覧ください。

「あしらい」について

あしらいとは

あしらいとは、料理の盛り付けを美しくするために使われる添え物のことです。
また、飾りに使う紅葉の葉や梅の枝なども広義では「あしらい」と呼ばれることもありますが、この様な食べられないものは「掻敷(かいしき)」や「かんざし」と呼んで区別する事が多いです。

つまり、「あしらい」とはメインのもの(お造り、焼き物など)の周りに使う飾りに使うもので、特に食べられるものを指します。

「あしらい」の分類

あしらいには大きく「けん」「つま」「辛味」に分けられます。

けん

「けん」は漢字で「剣」と書き、大根や人参、胡瓜などを桂剥き(かつらむき)して、細かく刻んだものです。

つま

「つま」は漢字では「褄」や「端」という字を当て、文字通り器の端に添えるものを指します。大葉や穂じそ、菊花の酢漬け、木の芽、紅たで、海苔や若布といった海藻類など、様々なものが使われます。

辛味

「辛味」は山葵(わさび)や生姜などのことです。

これらの総称が「あしらい」です。
古く江戸時代は、「けん」は「つま」の中に含まれていた概念だったそうで、細切りにした大根を器に敷き詰めたもののことを「敷き褄(しきづま)」と呼びます。なので、「けん」のことを「つま」と呼んでも間違いでは無いのですが、現代では区別して呼ばれています。

「けん」や「つま」の効用

「あしらい」は「季節の使者」とも言われ、料理のストーリーを表現するのに一役買っています。
また、見た目の美しさだけでなく、香りを添えたり、殺菌作用のあるものが使われます。生魚を食べるので、食当たりを防ぐための知恵だと思います。たまに造りの「けん」や「つま」を食べずに残す方が見られますが、料理を作る側の人間からすれば、是非一緒に召し上がって欲しいと思います。

「あしらい」の歴史

お造りの「あしらい」に相当するものは鎌倉時代の文献にも残っているそうです。
当時の日本には生の野菜を食べる習慣が無く、湯がいたタケノコや山菜などが使われ、大根の「けん」なども茹でていたそうです。お造りが水っぽくなるので、現代では「けん」を茹でて使うことは無くなってしまいました。

「辛味」の色々

辛味には山葵を使うことが多いでしょう。
しかし、元々は辛子が主流であったそうです。江戸前の寿司の影響を受けて、山葵が主流になっていったようです。マグロと山葵の相性はとてもいいですね。

また、カツオ・イカ・アジのようなものには山葵よりも生姜が合います。これらの魚は初夏の頃が旬になるのですが、ちょうどこの時期になると山葵の出来が悪くなって、生姜の新しいものが採れるようになるのが面白いところです。

また、京都府の鷹峯地方では、冬になると辛味大根という小ぶりの丸い大根が採れるのですが、ピリッとした刺激があり、これを山葵や生姜の代わりに使うことがあります。1980年代は辛味大根を生産する農家は1戸だけになってしまい「幻の野菜」と言われていたそうなのですが、現在では生産する農家の方も7戸まで増え、多少は市場に出回るようになっています。

参考リンク:京都市:辛味だいこん

その3に続きます。