美食学研究報告

日本料理の次世代への継承と、更なる発展。日本料理を未来に繋ぐ。

【「だし」について】 基本編 その4

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「出汁」についての話です。
前回までの記事は下記の通りです。


出汁について、一つ重要なポイントは同じ味の出汁は二度と引けないということです。
不思議なもので、全く同じ量の水と昆布と鰹節の量で出汁を引いたとしても、毎日味が変わります。昨日と今日で違う味になってしまうのです。
温度の問題かなっと思って、出汁を引く時の鍋に水と氷を入れて、温度を一定に調節して出汁を取ったことがあるのですが、ざんねながら結果はあまり変わりませんでした。

同じ1本の昆布でも根元の部分と先端の部分では出汁の出方も違います。鰹節も1本1本性質が変わります。また、皮の部分、血合の部分、身の部分でも違います。鰹節は乾燥させて製造しますので、同じメーカーの同じクラスの鰹節でも、夏場の湿度の高いときと、冬場の乾燥してるときとで味が変わります。

昆布だけでも厄介なのに、さらに鰹節まで加わり、バランスのいいようにしようと思ったら、もう本当に大変になってきます。さらに、出汁を取るときの鍋の大きさ、沸騰した鍋の中の水の対流など、様々な要素が出汁の味の変化要因になります。

毎日、全く同じクオリティ同じ味の出汁を引くことは理想ですが、ほとんど不可能に近いぐらい難しいことなのです。
全く同じものが作れないということは、自分の与えられた範囲の中で色々なことが試せるということです。昆布を煮出すときに、水から煮出したり、ある程度水温が上がってきてから昆布を入れるのか、あるいは沸騰してから入れるのか。鰹節も血合いや、粉々になった部分をどの程度いれるのか、鰹節は削りたてなのか、削って3日経ってるのか。自分の工夫次第で他にも色々なことが試せると思います。

新しい仕事を覚える喜びというのも当然ながらあります。しかし、毎日同じことをする中での喜びも同時にあるのではないかとも思うのです。

出汁を取る係の人は、自分が引いた出汁の、調味料の入っていないストレートの味を毎日見て欲しいと思います。それも完成形の味だけでなく、むしろ途中の味です。昆布が沸騰した直後の味、鰹節を入れた瞬間、鰹節の投入から10分経ったとき、15分経ったとき。また、朝に引き立ての二番出汁と昼の営業が終わった後の二番出汁、夜に片付けるときの二番出汁、次の日の朝の二番出汁、それらは同一のものなのか、時間の経過で味がどのように変化するのか、そういうデータを自分の中で蓄積させていくことが大事です。

そういうトレーニングをしておくことで、もしも環境が変化したときでも、何回かで慣れ、冷静に対処して対応出来るようになると思います。自分で考える理想の出汁はどういうものなのかイメージを掴むことも出来るようになると思います。

毎日、同じ事を繰り返すと飽きてくると思います。しかし、同じことをしているようで、実は少しずつ変化している。少しの変化を自分次第で楽しもう。工夫しよう。出汁の話に限らず人生全般に言えますね。そういう話でした。

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