美食学研究報告

日本料理の次世代への継承と、更なる発展。日本料理を未来に繋ぐ。

【献立について考える】「水物」

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甘味もひとつの「料理」であるという認識を

コース料理の献立の締めくくりは甘いものが出されます。
今回は水物について考えていきたいと思います。

「食後のデザート」という言葉もあります。デザートというのは単なるオマケとまでは言いませんが、それが「ひとつの料理である」という認識は薄れがちでないでしょうか。

なぜ締めくくりには甘いものを食べるのか

糖分の補給

そもそも、なぜ締めくくりには甘いものを食べるのでしょうか?
フランス料理においては、料理に砂糖を使うことが少なかったようで、糖分補給の意味で締めくくりにデザートを出すようになったという歴史を聞いたことがあります。

日本料理において、いつから食後にデザートを食べるようになったかは私は知りませんが、フランス料理の場合と近い意味もあるのでは無いかと思います。
「水物」の前は「ご飯物」です。ご飯に漬物と赤出汁と塩気の強いものを食べることが多いです。それを中和するために甘味を食べるということはひとつの理由として考えられるでしょう。

食事中の疲労の回復

よく知られているように甘いものには疲労回復効果があります。仕事終わりにコンビニに寄るとチョコレートやシュークリームに誘惑される経験をしたことのある人も多いでしょう。
「コース料理を食べる」というのは、実は中々疲れるものです。
普段より少し良い服を来て、来店時間に遅れないように気を配り、ずっと同じ姿勢で2時間ぐらい椅子に座り、胃を中心とした消化器官はずっと働き続けている。

「お腹がいっぱいになると眠たくなる」という経験は誰でも起こる生理現象です。これは私たちが思っている以上に消化器官の活動にはエネルギーを使うからなのです。

その疲労回復のために締めくくりに甘いものを提供するというのがひとつの理由としてあります。

女性受けを狙う

女性というのは、基本的に甘いものが大好きです。
近くに「ケーキの食べ放題」なんて店があるとどこでも大流行ですね。

日本料理店の中でも、お菓子に力を入れて、それを上手くPRして、奥様たちの評判から有名になったという店もあります。彼女たちの甘いものに対する目線の鋭さ、評価の厳しさというのは物凄いものがあります。

甘味で日々マーケティングの感覚を鍛えられ、それ以外の全体も良い方向に向かっていくというのは当然のことでしょう。

日本料理店における甘味

「日本料理店における甘味とは何か」という問題があります。
それは「お菓子」なのか「料理」かという問題です。
和菓子屋さんの作った菓子を買って出したり、例えばホテルの日本料理などなら、ホテルのパティシエの人が作ったものを出す一つの方法です。それは完全に「お菓子」です。
それでも十分に良いとは思うのですが、献立の流れとは全く無関係な「食後のデザート」という位置付けになります。

我々のような日本料理の職人が、日々甘味と格闘して試行錯誤しているプロのお菓子屋さんの作る甘味と比較して勝てるわけがありません。
日本料理店には日本料理の視点で、献立の流れというものを意識した甘味というものを考えてはどうかと思います。言わば、「食中のデザート」という意識で水物を捉えてみてはいかがでしょうか。

果物ひとつにも素材を生かすという視点を

日本料理とはどんなものかといえば、よく言われているように「素材を生かす料理」「引き算の料理」です。
たとえ果物を切って出すだけであっても、素材の質にこだわりを持つべきでしょう。

例えば、メロン。少し若めのものを買って、食べ頃になるまで店に置いて熟すのを待ちます。
数日経って、いよいよ今日が食べ頃という時に切り分けて、フォークと一緒に提供する。
ただそれだけの事ですが、微妙に違うメロンの熟れ具合を見極めて、適切なタイミングで提供することは簡単なことではありません。

漠然と「メロンの在庫は2個」と考えるか、「明日食べ頃になるメロンが1個と明後日が食べ頃のものが1個ある」と考えるかは大きな差です。
これが筍や鯛だと誰でも真剣に素材の状態を見極めようとします。
果物でも同じことです。真剣に素材と向き合えば、「ベストの状態よりも熟れすぎてしまったから、潰してシャーベットにしよう」とか、そういう発想も浮かんできます。

造りを切ったり、筍を炊いたり、という仕事はある程度の経験を積んだ方が担当することが多いですが、果物は若手の担当という職場は多いと思います。

若手の頃から果物の見極めをする訓練をしていると、将来的に鯛や筍を担当する立場になったとき必ず繋がってきます。
単なるオマケの甘味ではなく、料理のコースのひとつとして捉えて欲しいと思います。