美食学研究報告

日本料理の次世代への継承と、更なる発展。日本料理を未来に繋ぐ。

【調理の技法 第5回】 「炊く(焚く)」その2

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前回の記事の続きになります。

「炊く」とは最も重要な調理の技法

「炊く」という調理方法は、日本料理の中でも最も重要な調理方法でないかと思います。「焚き合わせ」はもちろんですが、広義で考えれば、出汁を引くことも、ほうれん草のお浸し鴨ロース、ご飯を炊くことも、全部「炊く」ことでないかと思います。

色々な「炊く」

味付けした"地"を使って調理すること、これが「炊く」ということです。地の温度の上限値は水の沸点である100℃、下限値は融点である0℃です。この間の温度をコントロールすることで、様々な「炊く」があります。0℃近くから20℃というのは、実際にはほとんど使うことは無いのですが、あくまで理論上の話です。
温度帯によって「炊く」の性質も変わってきます。

100℃近くで沸騰した地で炊くことを「グツグツ」と表現することがあります。沸点近くで炊くと、素材の変質が激しくなり、長時間グツグツ煮込むと煮崩れを起こします。表面だけ火を通して、中心部には火を入れたく無い場合は、この温度帯でサッと炊くという方法が用いられます。

日本料理の場合、長時間炊くときに使う擬音語は「コトコト」でしょうか。大体、温度帯でいうと80℃から95℃ぐらいです。この温度帯だと、長時間煮ても型崩れしにくく、素材の中まで火は入ります。

さらに、ここ最近注目を浴びて、ブームになっているのが60℃から70℃ぐらいの温度帯です。この温度帯だと、素材に火を通すことは十分出来ます。しかし、素材の変質は少なくて済む。日本料理でも、合鴨のロースなんかで昔から使われていた温度帯です。いわゆる"低温調理"などと言われている方法で、料理を柔らかいまま味付けすることが出来ます。含め煮のような炊き方も、この温度帯をキープする感覚ですね。

煮物・焚き物は冷ます過程で味が入る

煮炊き物は冷める過程で味が入るというのは、よく言われています。料理の世界で働いている人からすれば常識かもしれません。家庭で作ったカレーおでんも作った初日よりも、2日目のほうが味が入って美味しいと思います。
「炊く」ことに限らず、素材を加熱するということは、「内部の水分を流出させる」ということです。「炊く」場合は味付けをした液体の中で加熱しています。素材の内部の水分は一度抜けたあとに、浸透圧で周りの水分を吸収していきます。しかし、火にかかっている状態だと、周りの水分が対流しており、素材の内部まで入っていき辛い状態です。火を止めると対流が無くなり、周りの調味した地が素材の内部まで入っていきます。この味付けした地を吸収した状態が、冷ます過程で味が入るという状態のことです。

煮方は段取りが生命線

「料理上手な人は段取り上手」という言葉がありますが、煮方のポジションほど、この言葉が当てはまることは無いのではと思います。
テンションと集中力を上げて身体を早く動かすことは出来ます。切ったり盛り付けたり、という仕事は「急げ!」と言われて急ぐ事が出来ます。慣れてくれば仕事のスピードを上げることも可能です。
しかし、どれだけ集中力を高めても、どれだけ経験値を貯めても、素材の火の入り具合、味の入り具合を早めることは出来ないのです。「火」「素材」「時間」、この3つを上手く組み立て、コントロールして行かなければいけません。



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