美食学研究報告

日本料理の次世代への継承と、更なる発展。日本料理を未来に繋ぐ。

調理技術の上達は才能より努力である

新人調理師の皆様へ

どうも、あとむら(@gastronomy_work)です。

春ですね。そろそろ職場にも学校を卒業したばかりの新人の方が入ってくる頃で無いでしょうか。

同じ職場でスタートをした人の間でも、1年後、2年後、3年後と年数を重ねていくうちに技術の差が出てくるものです。

片やいつまでも雑用ばかり、片やどんどん仕事を与えられるということは、どんな職場でもあり得ることです。

生まれ持って器用不器用の差、人それぞれの味覚や視覚のセンスの差はありますが、努力次第で補うことができます。

一つ言っておきますが、調理学校時代の成績や点数は、就職した後は全く関係なくなるということです。

学校で点数を取るための勉強と、社会人として仕事をすることは全く違うものだからです。
成績が悪かったからと言って悲観することは全くありません。これからいくらでも逆転することは可能です。

私自身、まだまだ勉強中の身ですが、新人調理師の皆様の為に何か役に立てばと思って書かせていただきます。

まずは雰囲気を掴むことだけでも目標に!

新人として調理の世界に入社したばかりの頃は、仕事の出来る先輩に少しでも追いつきたいと思うものですが、思っているだけでは仕方ありません。自分の仕事を出来るだけ早く終わらせて手伝いが出来るようにすることを目標にしましょう。

とはいえ、新人の仕事は膨大な量でなかなか余裕が無いと思います。
第一歩として、手伝いが出来ないまでも、先輩の仕事をしっかりと見る。仕事の雰囲気を掴むことからスタートで良いでしょう。

そういうことを毎日繰り返していると、仕事の流れがだんだんとわかってきます。
器を出したり、温めて拭いて、という仕事であっても、先輩の指示を受けてから取り掛かるのではなく、何も言われなくても流れを読んでいいタイミングで動けるようになってきます。

そういうことを積み重ねていくと、先輩達も色々と教えてくれるようになるものです。雑用仕事だけでなく、野菜や魚の下処理などを教えてくれる場合もあるのではないでしょうか。
そうなると、自分自身も仕事にヤル気が出てくることと思います。

まとめ

まずは言われた仕事を全力ですること。
先輩の仕事を観察して、余裕が出来れば手伝わせてもらえるようにすること。
手伝いが出来なくても、仕事の流れを覚えることです。

そして、しっかりと影で練習することです。
野菜の刻みものや桂剥きの練習、魚の水洗いや卸す練習。
休みの日には、自分で材料を買ってきて普段の仕事では出来ないことをするといった小さな努力の積み重ねによって技術の上達があります。

しっかりと目標を持って、前向きに取り組んでもらいたいと思います。

入社1年目の教科書

入社1年目の教科書

日本料理の「メインディッシュ」とは?


日本料理のメインディッシュとは?

どうも、あとむら(@gastronomy_work)です。

西洋料理のコースには必ず「メインディッシュ」と言うものが存在します。
中華料理でもフルコースでは「主菜」と言うものがあります。

日本料理のコース料理に「メインディッシュ」に相当する概念はあるのか、ということについて考えてみます。

以前に、「献立について考える」というカテゴリでコース料理の盛り上がるポイントについて少し触れました。

今回は「主菜」という点に焦点を当てて考察したいと思います。

まず思いつくのは、椀物や刺身。
これらは「料理人の技術が表れる」とも言われ、どの店も力を入れている部分だと思います。
献立の盛り上がりの一つと言ってもいいかと思います。

「八寸」も季節を盛り込めてメインの可能性もあるし、西洋料理のように肉や魚の「焼物」も盛り上がりの一つになり得ます。また、ご飯も日本人なら最も大切な食べ物の一つでしょう。

まあ、全部メインディッシュの可能性があるやんけ。じゃあ、どれが本当のメインディッシュなのかという疑問に辿り着きます。


ここで例に挙げたいのは漫画のドラゴンボール。

「天下一武道会編」とか「フリーザ編」とか「セル編」という区切りはあります。
では、ドラゴンボールのメインのストーリーはどこかと言われたら、答えは「わからない」なんです。
各章で、みんなそれぞれ違った面白さがあるんです。
どれがメインとか、そんなことはとうでもいいことなんです。

日本料理にメインディッシュという概念は必要無いんじゃないかと、そう思いました。

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調理道具を大切に

調理に使う道具の話

どうも、あとむら(@gastronomy_work)です。

前回は衛生観念についての話でした。

参考記事

今回は道具の扱いについて書いていきたいと思います。
簡単に言ってしまえば、「道具は大切に」ということなのですが、もう少し掘り下げようと思います。

仕事の第一歩は道具の扱い方からスタート

調理器具は数限りなくあり、1日の仕事で使う数だけでも膨大です。
一つ一つの道具の名前を覚え、使い方を覚え、片付け方はどうするのか。
それが調理の仕事を始めた人の第一歩目では無いかと思います。

まな板でも何種類もあり、材料や用途によって使い方も変わってきます。できるだけ早く使い分けができるようになるべきです。
生の魚介や肉類を扱ったときは雑菌が残りやすく、洗剤でよく洗って流水でしっかりと流す。

また道具にあった洗い方や片付け方というのもあります。
例えば、裏ごし器などは水気をよく拭いて、しっかりと乾燥させないとカビが生える原因になったりします。

パール金属 裏ごし器 15cm ステンレス アンテノア 日本製 D-3564

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料理を作るときに必要不可欠なもの

調理に使う道具の中で、包丁だけが自分のものです。
自分の包丁は何時間も時間を掛けて手入れをする人は少なくありません。
店のものであったとしても、まな板や鍋も自分が使う道具に変わりはありません。自分の包丁と同じように大切に扱わなければいけません。

料理を作る仕事をする上で、必要不可欠なものが2つあります。
それは「食材」「道具」です。これが無ければ、料理人という仕事は何も出来ません。

料理を仕事にするときは、この2つを大切にし、敬意を払うべきだと思います。

技術や知識や経験は全く必要ありません。

使い終わった道具は、所定の位置に必ず戻す。
道具ひとつの置き場所が変わってしまうだけで、働く人の仕事の流れに影響して、余計な仕事を増やしてしまうことになります。

また、道具を適切に扱うことは、モノの寿命にもかかわってきます。
壊れたら新しいものを買えばいいという考え方では、誰もあなたのことを信頼する人はいなくなるでしょう。


関連記事

調理の仕事に衛生観念は必修科目!!

衛生観念を身につける

どうも、あとむら(@gastronomy_work)です。

人が食べるものを扱うという仕事柄、衛生観念は飲食店で働く全ての人に必須です。

食中毒を起こすことは、働いているお店に取って致命傷です。これは絶対に避けなければいけません。

食中毒を起こさないまでも、不衛生な店というのは、お客様が快適な時間を過ごすことが出来ません。

「あそこのラーメン屋、店は汚いけど、味はいいんだよー。」なんてことを言う人がいますが、店が汚い時点で飲食店として失格だからな!

料理人として働く為に大切なこと

というわけで、衛生という視点で調理師として大切なことをまとめてみました。

制服や制帽は常に清潔なものを!

仕事中は制服や決められた服装をしています。
仕事をしていたら汚れることもあるかと思います。
汚れの目立ったものは、すぐに着替えましょう。

また、着こなし方もだらしなく見えないようにしましょう。
汚れが無くても、制服の着方や制帽の被り方で、泥臭く見えてしまう人もいます。
鏡で確認して、しっかりとスマートに着るようにしてください。

頭髪は短く!

お店によって様々かもしれませんが、基本的に頭髪は短く整えておくのが良いでしょう。
長髪の場合も、きちんと整えておく。
調理中は髪の毛に触らない。しっかり意識しましょう。

ヒゲは剃る!

これも業種によるかもしれませんが、基本的にヒゲは剃りましょう。
ヒゲが濃いようならフラッシュ脱毛しましょう。

爪は短く!

手の爪は短く切り揃えましょう。
爪の間にはゴミが入りやすく、長ければ不衛生です。

入浴は毎日!

仕事で疲れているかもしれませんが、そのまま寝てしまわずに、きちんと入浴しましょう。
自分自身の汚れに敏感になりましょう。

睡眠はしっかり取ろう!

何よりも健康第一です。
睡眠がしっかり取れてないと、集中力は低下し、仕事のミスも多くなります。
また、顔色が悪いと実際の能力よりも、手際が悪く見えてしまうものです。

調理場や調理道具は常に清潔に

調理場の掃除も大切な仕事の一つです。
乱雑な調理場では段取りも悪くなり、いい料理が生まれるとは思えません。
道具は使ったら洗う。元の場所に片付ける。
基本中の基本です。
この習慣をしっかりと身につけておくと、将来的に独立したときに役に立つかと思います。

まとめ

「おもてなしの第一歩は掃除から」という言葉もあります。

掃除の仕方は店によって様々であり、掃除の仕方は全ての仕事の段取りに繋がっています。
私の働いてきた経験から見ても、衛生観念のしっかりした店は、いい料理を作っていることが多いです。

しっかりした衛生観念を身につけること、これは料理人として上を目指ざそうと思ったら必修科目です。
正直に言って、料理の技術は努力次第で誰でも身につけることが出来ます。
衛生観念は意識していないと身につけることが出来ません。
飲食店で働くときは、意識して衛生観念を身につけていってもらいたいと思います。

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【「だし」について】後村仮説とブラウン運動と現代ポートフォリオ理論


ブラウン運動と現代ポートフォリオ理論

時は20世紀半ば。場所はアメリカ。
ハリー・マーコウィッツという名の男がいた。
彼はシカゴ大学の大学院生であった。
マーコウィッツ青年は、多くの大学院生と似たような悩みを抱えていた。
つまり「博士論文のテーマ決まらへんわ。どうしよう。」である。

ある日、マーコウィッツ青年は研究室で謎の紳士に話しかけられた。彼は自分の抱えている悩みを紳士に打ち明けると、「株式市場の研究とかどう?」というアドバイスを貰った。
マーコウィッツは後年に、この研究でノーベル経済学賞を受賞することになるのだが、彼のアイデアの骨子は次のようなものである。

株の価格がいつ上がるか下がるか正確に予測出来る人は誰もいないらしい。
ということは、これはもしかしてランダムな確率の問題でないだろうか?
そうであれば、確率論や統計学を使えば株式市場を数学的に解明することが出来るかも。
これって結構イケてるんちゃう?

水に花粉を浮かべると、その粒子は水の分子のランダムな動きによって、時間の経過とともに拡散していく。
これが19世紀にロバート・ブラウンによって発見され、それから約80年の時を経て、20世紀にアインシュタインによって完全に解明された「ブラウン運動」である。
花粉の動きは完全に不規則で、誰がどんな方法を用いたとしても、1秒後の花粉の位置を知ることは不可能である。
しかし、確率的に花粉の粒子がどの範囲に収まるかを数学的に定義することは可能である。

株式市場の個々の株価の動きも「ブラウン運動」みたいなものじゃないの?というのがハリー・マーコウィッツ青年の考えである。

このハリー・マーコウィッツの論文をベースに、ジェームズ・トービン、ウィリアム・シャープという同じく後にノーベル経済学賞を受賞する天才たちの理論を組み合わせたものが「現代ポートフォリオ理論」である。

現代ポートフォリオ理論の内容を理解するのは難しい。
だけど、結論はメッチャクチャ簡単である。
曰く、「投資するときは色んなものにバラバラに投資しよう。そしたら個々の銘柄が上がったり下がったりするリスク(「危険」ではなく、数学的に言うところの「分散」や「バラツキ」の意味)は相殺されて、期待リターン(これも数学的に言えば「傾き」である。)だけが残る。」
大昔から言われている「タマゴを一つの籠に盛るな」という諺を数学的に完璧に証明してしまったのである。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

ちなみに、最初にハリー・マーコウィッツに株式市場の研究を提案した謎の紳士は、教授に株を売りつけようとしていたブローカーだったそうである。

出汁についての一つの仮説

さて、時は現代。場所は日本、愛知県名古屋市。
登場する男の名前は後村(あとむら@gastronomy_work)。生業は日本料理人。私である。


今から数年前。
来る日も来る日も毎日のように出汁を引いていた。
しかも45リットルとか50リットルとか、馬鹿みたいな量の出汁を毎日毎日引いていた。
大変、厳しい店であった。
私は、来る日も来る日も上司から詰められていた。
「あかん。薄い。」「もっと鰹入れろ」「昆布入れて、もうちょっと焚け」
1週間のうち、3日か4日はこんな調子である。


出汁を引くときに使う材料は水と昆布と鰹節だけである。
重さを計量してイケてるときの割合を覚えておいて、毎日同じようにやればいいやん。
単純にそう思った。

しかし、物事はそんなに単純では無かった。
全く同じ水の量、昆布の量、鰹節の量で出汁を引いても全く同じ味の出汁が完成することは二度と無かった。

①人間にも身長の高い人と低い人、顔の造形が一人ひとり違うように鰹節や昆布にも個体差がある。
②鍋の中の対流の具合によって、抽出される旨味成分の量に変化がある。
以上、2点が主な原因であった。


私のアイデアの骨子は次の通りである。
対流って要は「ブラウン運動」みたいなものじゃないの?
株式市場の話も鍋の中の出汁の味も一緒ちゃうん?
ということは、「現代ポートフォリオ理論」と同じ結論に帰結するんじゃないの?

それを踏まえて、私の立てた仮説は次のようなものである。
「複数の鰹節、複数の昆布を使うことで、個々の味のバラツキは相殺されて、旨味だけが残る。つまり、バラツキなく安定した味の出汁が毎日引けるようになる。」

あらかじめ断っておくが、私はブラウン運動も現代ポートフォリオ理論も論旨の内容は一切理解していない。
結論を知っているだけである。
ノーベル賞を受賞するような天才が言ってるんだから間違いないやん、という態度である。

車を運転するときに、ガソリンとエンジンとモーターの関係を知る必要は全くない。
「レクサス格好いいなー。」とか「いや、日産でしょ!」とか「ワシ、地元じゃけえ、マツダじゃろ!」とかその程度の知識で皆んな100万円とか200万円単位の買い物を決めている。
それと同じようなものである。

誰か優れた理系の頭脳を持つ方が、この仮説を証明してもらうことを祈るばかりである。

【京都・丸太町「木山」】シンプルかつストレートな料理

丸太町の料理屋「木山」に伺いました。
2017年春に新しくオープンしたお店です。
オープンして数ヶ月でミシュランの星を取った、最近話題のお店です。

こちらのお店では、お店をオープンする工事のときに井戸水が湧いたようで、料理はこちらの井戸水を使用されているようです。
料理が始まる前に、この井戸水の白湯を頂きましたが、非常にスッキリとした美味しい水でした。
水は料理を作る上で非常に大きな役割を果たします。
非常に期待が高まります。

15000円コースをいただきました。
料理はとてもシンプルでしたが、シンプルな料理というのは提供する側から見れば、一つのミスも許されない緊張感を強いられます。
全てが高いレベルでまとめられてあり、食後は非常に感動を覚えました。

内容を写真付きで御紹介します。

  • 先付:唐墨(からすみ)と黒豆の飯蒸し
  • 小吸物:海老と粟麩の小吸物
  • 酢の物:河豚のたたき
  • 鰹節食べ比べ
  • 椀物:蟹真薯、蕪、金時人参
  • 造里:石鯛、平目
  • 強肴:海老芋、雲丹、雲丹醤油掛け
  • 焼物:ローストビーフ、リンゴ 九条葱ソース掛け
  • 油物:カワハギ、堀川牛蒡、蓮根の天ぷら
  • 蒸物:甘鯛の蕪蒸し
  • 御飯物:牡蠣丼、白米、鰹節、ちりめん山椒、玉子かけごはん、香の物
  • 水物:洋梨のジュース
  • 菓子:百合根きんとん
  • 抹茶

先付は正月ということで、縁起物の唐墨(からすみ)と黒豆の飯蒸しです。
唐墨は非常に薄くスライスしており、飯蒸しと一緒に食べるとちょうど良い塩加減です。
黒豆は甘み無しで炊かれており、黒と白の色合いのバランスが良いです。

お酒にも合う先付で、非常に考えられていると思いました。

海老で出汁を取ったスープです。
この出汁が、海老の味が非常に濃厚に出ていて美味しいです。少量でも野趣があってメリハリを感じます。

河豚(ふぐ)のたたき
河豚は大きめのブツ切りにしてあり、旨味と食感が堪能できます。
中にグレープフルーツが入っており、ポン酢の酸味だけでなく天然の酸味も加わって、味の奥行きが感じます。



お椀は蟹真薯(かにしんじょ)ですが、その前に鰹節の食べ比べです。

御主人が目の前で削った鰹節を三種。
荒節と本枯節と鮪節です。
これらを使って目の前で出汁を引いて貰えます。
色々な種類の鰹節を使うことで出汁の味に深みが出ます。
一種のパフォーマンスですが決して大袈裟なものではなく、料理の理解を高めてもらおうという感じで好感が持てます。

お椀は本当に美味しいです!
塩や醤油の味付けは少量で、純粋に出汁の味だけで勝負しています!
かといって薄味過ぎるということは全くなく、ベースとなる昆布も鰹節も重厚に感じます。
食後のくどさは全くなく、程よい旨味でスッキリとシャープな理想的な一番出汁ではないでしょうか。良質の井戸水というのが最高に活かされています。

蟹真薯はしっかりと蟹の味がして、出汁との相性は最高です。


造りは平目と石鯛
どちらも数日寝かせたものです。少し大きめに切ってあり、よく噛めば中から甘みが感じられるような工夫がされています。
醤油も少々甘めで美味しいです。全部飲んでしまいました。


海老芋、雲丹(うに)、雲丹醤油掛け
海老芋は一度炊いてから揚げております。
海老芋の味付けは完璧です。
ここでも良質な出汁の存在感が輝いております。
雲丹(うに)はミョウバンの臭さは全く感じることが無くて、本当に美味しいです。


焼物はローストビーフ、リンゴ 九条葱ソース掛け
肉の旨味にリンゴが酸味と甘みを足して良いアクセントになっており、センスを感じます。
個人的に葱が好きなので、九条葱ソースは嬉しいです。美味しいのですが、少しクセがあり好き嫌いのありそうな部分です。


カワハギ、堀川牛蒡、蓮根の天ぷら
衣が薄めで重くなく、素材の味がしっかりと感じられる天ぷらです。
別付にカワハギの肝醤油。臭みは全くありません。


甘鯛の蕪蒸し
蕪蒸しの餡は醤油を使わず塩で味付けしているため白い餡です。結構珍しいです。
醤油を使わない分、コクは無くなりますがスッキリとした味になり甘鯛の味がより感じることができます。


御飯物は炊きたての白御飯。
それを牡蠣丼にするか、出汁茶漬けにするか、削りたての鰹節とちりめん山椒で食べるかチョイスです。
せっかくなので、全種類を少しずついただきました。

米は佐渡のコシヒカリ。ここでも水の良さが活きており、抜群の美味しさです。


さらに追加で玉子かけごはん
贅沢に卵黄のみ使用です。
写真で見て貰えればわかりますが、非常に濃厚な卵黄です。
絶対美味しいやつです。


搾りたての洋梨ジュースです。
フルーツを提供する店が多いと思いますが、ジュースにするという発想は素晴らしいと思いました。
甘みと爽やかさで、食事の満足感は非常に高まります。


締めくくりは抹茶と百合根きんとん
中に入っている漉し餡の甘みは控えめで、百合根の本来の味が楽しめます。


シンプルかつストレートな料理が多いですが、完成度は非常に高く、本当に感動しました。
先ほどの繰り返しになりますが、シンプルな料理というのは、一つのミスも許されない緊張感を強いられます。これだけ高いレベルで提供される御主人、スタッフの方々に脱帽です。
水の美味しさというのを感じられます。
カウンター9席と個室の20席ほどのお店です。
御主人の接客も非常に心地良く、カウンターがオススメです。
おそらく、将来的には予約の取れない店になるのではないかと思います。


木山(きやま)
京都市中京区堺町通竹屋町下ル西側 ヴェルドール御所1F
TEL:075-256-4460

水の美味しさについての記事はこちらで解説しています。

他の店舗レビューも合わせてどうぞ。

【喫茶マドラグ】伝説の玉子サンドを求めて


京都の西木屋町四条にコロナという店があった。玉子サンドが有名で、テレビや雑誌によく出ていた。昭和の雰囲気を色濃く残す店内で、高齢のマスターが一人でカウンターキッチンに立ち、調理する様はとても格好よかった。一人前に推定5個分の鶏卵の入ったサンドイッチは圧巻であった。僕が初めて訪れたときは、既にマスターのことを「生きる伝説」と形容する人が大勢いた。

それから数年後、この店に女を連れて行ったことがある。店の前まで辿り着き、貼り紙の「閉店」の文字を見て呆然とした。数秒の後に正気を取り戻した僕は心の中で、散々マスターの悪態をついた。「なんで勝手に閉店してんねん!!」「って言うか、この二人の雰囲気どうすんの…。」

次の季節に変わる頃には、女は僕の前からいなくなっていた。後になって、マスターが既に90歳を超えていたことを知った。90歳を超えて、なお調理場に立ち続けたマスターは立派であった。何一つ非はなかった。僕は自分の未熟さを転嫁しているだけの愚か者だった。

コロナの玉子サンドの奥義が京都の他の喫茶店に継承されていたことを知った。押小路西洞院、喫茶マドラグ。
初めて訪れた店で邂逅した味は、とても懐かしく、切なく、そして美味しかった。この世の無常と普遍を同時に教えてもらったような気がした。

若いマスターの作る玉子サンドを本物であると認めると、急に不思議な気持ちになってきた。僕は思わず、ポケットから携帯電話を取り出して、何年も連絡を取ってなかった女の番号をダイヤルした。女が現在、どの街に住んでいるのかも知らなかった。もしかしたら、既に何処かの誰かと新しい暮らしをしているかもしれない。ほんの一瞬、頭の中にそんな考えがよぎったが、そんな事はどうでもよかった。一緒に玉子サンドを食べたい、ただそれだけを伝えたかった。他の事はどうでもよかった。こんな気持ちになるのは生まれて初めてだった。
「あっ、もしもし?」
間髪入れずに違う女の声がした。

「この電話番号は現在使われておりません。番号をお確かめになって、もう一度お掛け直しください。この電話番号は…。」

喫茶マドラグ
京都市中京区押小路通西洞院東入ル北側
TEL:075-744-0067

【基本の和食】美味しい七草粥の作り方【生の米からお粥を作る】

どうも、あとむら(@gastronomy_work)です。
1月7日は「人日(じんじつ)の節句」です。
人日の節句という言葉は聞き慣れないかもしれませんが、七草粥を食べる日として定着していますね。

お粥についての周辺知識

「お粥」の語源

元々、「かゆ」とは炊いた米の事を指す言葉でした。いわゆる、現代の「ごはん」です。
一方、蒸した米のことを「強飯(こわめし)」と言いました。これは現代でも「おこわ」という言葉で残っています。

炊き粥と入れ粥

生の米から作るのを炊き粥
一度炊いた米に水を足して作るのを入れ粥と言います。

一般的に家庭では「お粥」と言えば入れ粥のほうをイメージされると思います。
しかし、炊き粥のほうが米の旨味が凝縮されて断然美味しいです。

お粥の作り方

今日は炊き粥で七草粥を作ってみました。

お米の研ぎ方は普通に研いでもらって大丈夫です。

鍋に米1カップに対して水5カップを入れて火にかけます。

沸騰したら塩を一つまみ入れて、火を弱めて蓋をズラします。

そのまま30〜40分コトコトと炊けば、普通の炊き粥です。

今回は七草粥ですので、お粥を炊いている間に七草を水で洗って刻みます。

長時間火にかけると、緑色が飛んでしまいますので、火を止める5分前にお粥の中に入れます。
火が通れば、器に盛り付けて完成です。

飲んで美味しい「水」の条件とは?

飲むときの「水」について

どうも、あとむら(@gastronomy_work)です。
前回の記事では「水」と料理の関係について書きました。

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飲食店にとって「お冷」は大切なサービスの一つです。
今回は飲料水について考えてみます。
「水」には何の味も無いようですが、水の違いによって「美味しい」「美味しくない」を感じるように我々の舌は非常に繊細に出来ています。
しかし、美味しい水とそうでない水の違いを説明しようと思っても難しいと思います。

厚生省の「美味しい水研究会」

「美味しい水」とは一体何かという疑問の、一つの指標となるものがあります。
1985年に厚生省(当時)の「美味しい水研究会」が発表した「美味しい水の要件」です。

参考ページ:トピック第17回 おいしい水 | 水源・水質 | 東京都水道局

水中に含まれるミネラルや残留塩素、温度などの要件について具体的な数値を出しています。

・蒸発残留物 30~200mg/ℓ
・硬度 10~100mg/ℓ
・遊離炭酸 3~30mg/ℓ
・過マンガン酸カリウム消費量 3mg/ℓ以下
・臭気強度 3以下
・残留塩素 0.4mg/ℓ以下
・水温 最高20℃以下


この数値を元に美味しい「水」の条件とは何か私なりに考えてみます。

美味しい「水」の条件とは

温度

まず、水の味は温度によって印象がかなり変わります。飲料水は20度を超えると、美味しい水であってもあまり美味しいと感じなくなります。

ビールやシャンパンなどは冷蔵庫から出したばかりの良く冷えてるものが一番美味しいと感じますが、あまり味の無い飲料水は15度ぐらいが一番美味しく感じます。

温度によって味の感じ方が変わるというのは料理も同じで、それについては別記事でまとめてあります。

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湯冷ましが美味しくないと言われる理由

水の中には微量ながら二酸化炭素や酸素が含まれていますが、これらが溶け込んでいるほど、口に含んだときの爽やかさを感じます。
湯冷ましが美味しくないと言われる理由は、沸騰させたときに水に溶け込んでいた炭酸が抜けてしまうからです。
3~30mg/ℓは炭酸が含まれていた方が良いというのはそういうことです。

におい

水の「におい」を人間は非常に敏感に感じ取ります。水道水のサビの臭いやカルキ臭は水を不味く感じさせる原因の一つです。
「美味しい水研究会」の残留塩素の項目はカルキ臭に影響を与えます。
臭気強度というのは全体の臭いの指数です。

蒸発残留物

蒸発残留物とは水を完全に蒸発させたときに残る物質のことです。
主な成分はミネラルです。
飲料水の美味しさに適度なミネラルは必要で、それらの全く含まれていない完全なH2Oである蒸留水は無味無臭で美味しいとは言えません。
しかし、ミネラルが多すぎると苦味を感じるようになります。
「美味しい水研究会」では30~200mg/ℓぐらいとされています。

硬度

硬度とは水に含まれるミネラルの中でも特にマグネシウムとカルシウムの含有量の合計です。
「美味しい水研究会」では硬度は10~100mg/ℓが良いとされていますが、これは「軟水」に分類されます。
しかし、飲料水の硬度と美味しさについては個人の好みによるので一般化するのは難しいかもしれません。
「エビアン(硬水)」と「いろはす(軟水)」どっちが美味しいと感じるかは人それぞれでしょう。
和食を作るときには軟水が適していますが、飲料水は関してはそうでもないかと思います。

料理に使う水の硬度に関しては、辻調のサイトが非常にわかりやすいです。
http://www.tsujicho.com/oishii/recipe/pain/viva/water2.html

過マンガン酸カリウム消費量

過マンガン酸カリウム消費量とは、簡単に言えば水中に含まれる有機物の量のことです。
多いと渋みを感じたり、多量に含むと塩素の消費量に影響を与え、水の味を損ないます。

まとめ

「おいしい水の要件」を元に考えてみましたが、あくまで一つの要件であって「絶対条件」では無いです。
特に硬度などは人によって好みの違う部分が大きいところであると思います。
料理に使う水と飲料水では違うだろうし、まだまだ考えていく余地の大きい部分であると思います。

料理に欠かせない「水」の話

どうも、あとむら(@gastronomy_work)です。
2018年の最初は料理の全ての基本である「水」について書いてみたいと思います。

和食の味は水に掛かっている!

日本料理は水の味

日本料理の味は「水」に掛かっていると言っても過言ではないでしょう。
自然に恵まれ、農耕にも適した土地であった日本では鮮度の良い素材が手に入りやすく、また調理に適した軟水にも恵まれています。
茹でたり、煮炊きしたり、蒸したり、どれも水が欠かせない調理方法です。水が素材の味を引き出すと言ってもいいでしょう。
さらに、豆腐のように水が主体の素材もあります。豆腐を食べれば、その土地の水の味がわかると言われています。
和食の基本とも言える出汁の成分の99%以上は水です。

西洋料理、中華料理は油の味

ヨーロッパは歴史的に見ると常に食糧難でした。
普通の一般家庭では新鮮な食材を調達することはほとんど不可能でした。
臭いの強い肉類を調達するために、スパイスやバターやクリームといった脂肪分を多く使ったソースを使わないと食べることが困難だったのではないかと言われています。
今でも、フランス料理では、素材の味よりもソースの味のほうにポイントが置かれています。

中華料理でも油が多用されます。
国のほとんどが大陸であり、肉類や乾物が料理の素材として使われてきました。油で風味を足すという手法の料理が発達したと言われています。
また、ヨーロッパも中国も炭酸カルシウムの多く含まれた硬水が主流です。
硬水は調理には不向きで、西洋料理や中華料理の煮炊きものではスープストックを用いることが多く水をストレートではあまり使いません。

硬水と軟水

料理に使う硬水と軟水に関しては辻調のサイトの解説が非常にわかりやすいです。

http://www.tsujicho.com/oishii/recipe/pain/viva/water2.html

友人でヨーロッパの日本料理店で働いている人がいるのですが、硬水で昆布と鰹節を煮出しても、出汁がほとんど取れないと言っていました。彼の店では軟水のミネラルウォーターを買って出汁を取っているそうです。